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  3. アイヌの人々が愛した土地に湧く温泉【北海道・養老牛(ようろうし)温泉】
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道東の中標津に近い森の中に養老牛温泉があります。かつては数軒の温泉旅館がありましたが、現在はたった1軒が営業するだけ。それでも、ここは極上の温泉。雄大な自然の中にアイヌの人々が愛した温泉が湧き続けています。
湯宿だいいちの混浴大露天風呂

中標津は酪農が盛んな地だ

ロビーの向こうの木にアカゲラ

3種の湯船がある内湯

ぶくぶく自噴泉のからまつの湯

鋭い視線を送るシマフクロウ

養老牛温泉 湯宿だいいち
●住所:北海道標津郡中標津町養老牛518
●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物硫酸塩泉
●源泉温度:66.7度など源泉複数所有 
●宿泊:季節、曜日、客室の違いなどでさまざまなプランあり
●日帰り:13時~15時受付、16時退館 大型連休など不可の場合も
TEL:0153-78-2131
養老牛温泉 からまつの湯
●住所:北海道標津郡中標津町養老牛
●泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物硫酸塩泉
●源泉温度:80度(熱い自噴泉が川の水と混じり適温に) ※自主管理のためにマナーを守って入浴のこと


「温泉達人」としてテレビ番組で活躍、著書も多い故・野口悦男さんのお供をして全国の温泉地をずいぶんめぐってきた。
そのおかげで日本の温泉文化と貴重な木造三階建て温泉旅館、源泉かけ流しの湯をまとめたとっておきの温泉本『温泉遺産』(実業之日本社刊)のプロデュースを行う幸運に恵まれた。
野口悦男さんが病で没した後に、奥さまの了解を得て「温泉遺産」を冠に付けた、全国80カ所にも満たない、ぶくぶく自噴泉だけをまとめた共著を出す夢も叶えた。
この本は、『ぶくぶく自噴泉めぐり』というタイトルで、現在は改訂版が山と渓谷社から発行されている。



野口悦男さんが生涯で訪ねた温泉地は3400を超える。筆者はその3分の1にも満たない。
自噴泉めぐりの取材では温泉をめぐったが、それ以外の時は別の取材の合間に未入浴の温泉地を訪ねているのだから、「温泉マニア」と呼ばれる人に、数字的に追いつくのはムリだろう。
それでも、訪ねた先で温泉宿の大将や女将と話しをする機会に恵まれた。これも、野口悦男さんの恩恵だと感謝している。



温泉本の著書があると、当然のように「おすすめ温泉」を尋ねられる。
何を目的にするのか、どういう人と共に行くのか、エリアはどこかなどで回答は異なる。
それでも、「個人的に好きな温泉」はあげられる。筆者なりの個人ランキングである。



首都圏から近い場所で好きなのは、たとえば群馬県の法師温泉。ぶくぶく自噴泉として忘れられないのは福島県の甲子温泉。こぢんまりとしていても湯が抜群で“人がいい”福島・湯岐温泉。温泉地であれば兵庫・城崎温泉も好きな温泉だ。徳島・祖谷温泉の紅葉景色も忘れられない。
そして、全国トップ10以内に推したいのが今回取り上げる養老牛温泉である。



中標津空港からクルマで30分ほどで到着する養老牛温泉を、最初に訪ねた時は数軒の宿があった。しかし、今年の6月に1軒が廃業し、現在では湯宿だいいちの1軒だけになってしまっていた。
冬は深い雪に覆われる、広大な牧草地の奥にある土産店もないような小さな温泉地だけに、温泉旅館を維持するのはたいへんだろう。
しかし、ここはアイヌの人々や開拓の人々を癒やし続けた長い歴史のある温泉である。



養老牛はアイヌ語の「エ・ウォル・シ」もしくは「イ・オロ・ウシ」であり、山が岩崖になって水の中にささり込むところ、水に漬けるところなどの意味をもつ。
湯宿だいいちの前の川には、大きな岩が滑落して流れの中にささったところもあれば、アイヌの人々が長年に渡って居を構え、樹皮などを温泉に漬けて繊維を作った形跡も残る。
いずれにしても、アイヌの人々の言葉に由来する温泉なのだ。



アイヌの人々には「熊送り」と呼ばれる伝統儀式がある。方法などはさまざまあるようだが、「ヒグマの姿で遊びに来たカムイ(神)の魂を天上に送り返す」儀式であるのは共通している。
養老牛では毎年1頭のヒグマが熊送りによって天上に捧げられた。そのヒグマの骨が、湯宿だいいちのそばから400頭分発見されている。つまり、アイヌの人々は400年の長きに渡り、森に囲まれた穏やかな温泉が湧く土地に暮らし続けたことになる。
厳冬の北海道において、養老牛は生活のしやすい場所であったのだ。



養老牛温泉には湯宿だいいちの所有する湯と、クルマで5分ほどの場所に「からまつの湯」がある。こちらはぶくぶく自噴泉。簡易更衣室がある川沿いの小さな湯だ。
ただし、北海道開拓時のルートによって、からまつの湯が表養老牛でだいいちの湯は裏養老牛となる。温泉好きにはたまらない小さな自噴泉は、開拓の人々を癒やし続けた湯だった。
からまつの湯は現在、愛好家の方々が自主管理している。水着の着用やゴミ残しは禁止だ。「湯を借りる」つもりで入湯したい。



湯宿だいいちの湯も川に面している。男女別の趣向を凝らした数々の露天風呂、混浴大露天風呂、男女共に3種の湯船がある内湯…。
天然温泉100%の源泉かけ流し。湯は透明だが、光線の加減では薄いブルーにも見える。
この温泉がなんとも心地いい。長湯にぴったりなのだ。そして、長湯を楽しませてくれるのが北海道ならではの自然の森だ。
筆者が露天風呂に入っていると、川向こうを野性のテンが走った。斜面にはエゾシカの足跡が見える。空にはカケスの群れ。キツツキの仲間のアカゲラが木を突く音も聞こえる。
カケスの声が消えたと思ったら、露天風呂から見える大木の枝にオオワシが飛来していた。



夜の楽しみは北海道の海の幸。カニやお刺身などが順番に配膳される。サービスを担当するスタッフの対応も気持ちいい。そして、違う楽しみもある。
「来ましたよ」のスタッフの声で静かにロビーに向かう。翼長180cmはあろうかというシマフクロウが鋭い目をして、大ガラスの向こうの生け簀の上に鎮座していた。個体数160とも150ともいわれる貴重な大型フクロウだ。
決して毎日訪れるわけではないが、それを見られただけで喜びは増す。



養老牛温泉は、野性の中の温泉である。それでいて、宿はすみずみまで清潔で、海鮮を中心にした夕食、地域の濃厚なミルクと共にいただく朝食もおいしい。こんな宿は日本には珍しい。
長い期間在住したアイヌの人々のように、筆者もこの宿に長逗留したくなった。

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湯宿だいいちに宿泊の場合、中標津空港まで送迎あり。
釧路外環状道路を使用する場合は、釧路別保ICから国道272号利用。釧路より約110分、網走より約90分、北見より約130分。
< PROFILE >
篠遠 泉
出版社勤務時はスポーツやアウトドア、旅関連ムックの編集長を務める。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』『ぶくぶく自噴泉めぐり 改訂新版』を上梓。旅雑誌などに連載中。
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