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  3. 細工しやすい“やわらかい石”が作った幻想の世界【栃木県・大谷資料館、大谷寺】
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「大谷石(おおやいし)」をご存じですか? 軽石凝灰岩の一種で、日本では栃木県宇都宮市の大谷付近で採掘される石です。特徴は柔らかくて、加工しやすいこと。その大谷石の産地に幻想的なパワースポットがありました。

大谷資料館の横にある採掘跡のある山


正面にも大谷石が使用された自由学園明日館


採掘場を公開した大谷資料館


大谷地域をドライブすると、大谷石を使った土蔵や塀をたくさん見かけます。

大谷石は軽く、柔らかく、加工しやすいのが特徴です。加えて、耐火性にも優れています。それらのことから、昔から外壁や土蔵をはじめ門柱や敷石などの建材として使われたほか、防火壁にも役立てられてきました。

現在では耐火性と蓄熱性がよいために、パンやピザを焼く窯に使用されるケースもあります。



大谷石は栃木周辺の建造物には使用されても、これほどまでに全国的に使われる素材ではありませんでした。

大谷石を一躍広めたのは、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトです。ライトは1867年生まれ。独立して活動をはじめた1893年から1910年の17年の間に、200軒近い建築設計を行うほどの人気建築家でした。

しかし、妻との離婚問題などを抱えて名声は地に落ち、さらに弟子と妻、子どもが殺害されるという事件まで起きてしまいます。

失意の中にあったライトに光明がさしたのは、1913年の帝国ホテル新館の設計依頼でした。

結局、大幅な予算オーバーと工期の遅れによってライト自身は1923年の竣工を見届けられませんでしたが、完成された建物は独特の個性をもち、左右対称のすばらしい設計でした。そして、そこに大谷石が大量に使われたのです。

ライトは日本でも東京・目白に残る自由学園明日館や、個人宅などを建築していますが、それらに大谷石は効果的に使用されていました。

大谷石はライトのみごとな建造物によって、一躍建築家たちに注目される石材になりました。



大谷地区には地下あるいは山を削って大谷石を取り出した採石場があります。

その大きさは広大なもので、一部は大谷資料館として公開され、そのほかにもワインや日本酒、納豆などの貯蔵、熟成に使われています。

大谷石の採石場は、食品やお酒を熟成されるパワーをもった場所となりました。

真上を見上げると、地上の光が見えました


ライトアップされた幻想的な空間


高さ27mの直彫りの観音様


最初に訪れたのは大谷資料館でした。

ここはかつての採石場です。入り口横の階段を降りると、すぐに広い採石場跡が現れました。

とはいえ、大谷資料館の広さは2万㎡、深さは30mにもなり、階段から見えない場所にも掘られた広大な空間が広がります。

採掘場跡は適度にライトアップされ、音楽が流れ、まるで巨大なピラミッドの内部に迷い込んだような気持ちになりました。



階段を降りてからは、歩行用の通路を歩いて散策します。

よく見ると、壁には無数のツルハシの跡がありました。本格的に採掘が始まった江戸時代中期から昭和30年頃までは、採掘のための道具はツルハシと、切り取った大谷石を運ぶための背負子ぐらい。

人力によって大谷石は切り出され、それを人が背負って地上に運んだのです。

地上に出た大谷石は、イカダやウマ、トロッコなどで運ばれたということです。

近年はさすがに機械化し、掘削機で切り出しモーターウインチによって運び出し、それをトラックで運んでいます。



私はかつてエジプトの王の墓(ギザのピラミッドとは異なります)に入ったことがあります。

そこは長方形をしたいくつもの巨大な部屋が、連なっていました。壁一面にはエジプト文字が描かれています。

大谷資料館もそれと同じでした。いくつもの巨大な切り出し部屋があり、それぞれにライトアップされていました。

また、ある場所には地上に繋がる天空の窓があり、そこには光が差していました。

どこまでも幻想的なのです。幻想的でいて、江戸の昔から大谷石の採掘に関わった人たちの底知れぬパワーも感じられます。

「日本にもこんな空間があったのか」と、感慨深いものがありました。

大谷資料館を後に向かった大谷公園には、石を直接彫った高さ27mの観音様がありました。

昭和初期に掘られたそうですが、こんな巨大な直彫りの観音様があるのも大谷ならではといえそうです。

奇岩の中にある大谷寺


千手観音は撮影禁止。これはポスターを複写しました


シルクロードは私が個人的に行ってみたいところでした。

念願かなったのは数年前。シルクロードの東の起点である西安から敦煌文書で知られる敦煌までを旅しました。

また、知人とガンダーラ地域を旅したこともあります。

印象的なのは、岩などに直接彫られた石仏でした。日本の石仏といえば、切り出した岩などを掘ったものがほとんどです。しかし、シルクロードで見たそれは、中国であっても、ガンダーラであっても、巨大な岩に直接彫られていました。

2001年に偶像崇拝を禁じた旧支配勢力によって爆破されたアフガニスタン・バーミアンの巨大な石仏も、岩山を彫ったものです。

シルクロードの写真集などを見ても、このような自然のままの地形を生かした石仏像が多いのです。



大谷公園には天然の岩山を掘った巨大な観音様がありました。

もうひとつ、大谷には貴重な観音様があります。

大谷寺にある「大谷寺本尊千手観音」がそれです。

一説によると弘法大師が平安時代(810年)に完成させたとあります。岩面に直接彫刻し、表面に朱を塗り、粘土で繊細な細工を施し、漆を塗り、さらに金箔を押したという貴重な石仏です。

近年の研究ではバーミアンの石仏作りと共通点が多く見られることから、シルクロードをやってきたアフガニスタンの僧侶が彫刻したという説が強くなっているそうです。

また、千手観音のほかにも、合計10躰の石仏が大谷寺の岩壁に描かれています。



これこそ、まさに歴史ロマンではないでしょうか。

大谷寺は本殿が巨大な岩の中にあります。上部は巨大な岩。その岩は長い歴史の中で雨に溶け、独特な形状になっています。

かつて、このあたり一帯は大小の岩が屏風のようにあったといいます。中には平らに広がった場所もあったから、「大谷」と言われました。

大谷地域にある大谷資料館と大谷寺。自然のパワーと、それに関わった人たちのパワーが交錯した場所です。

首都圏から近いので、ぜひおでかけしてみてください。

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●東北自動車道宇都宮ICから国道293号経由で8km、約10分。大谷資料館と大谷公園、大谷寺は同じエリアに点在する。同じく大谷資料館などの入り口にある大谷景観公園では屏風岩のような大谷石が見られる。
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
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