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  3. 木造の湯小屋で秘湯を満喫できる透明と白濁、2種類の単純硫黄泉 青森県・谷地温泉
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雪融けが終わるころになると、青森県の奥入瀬渓流には新緑を求めて多くの観光客が訪れる。十和田湖観光と合わせてぜひ立ち寄りたいのが、ぶくぶく自噴泉の“霊泉”がすばらしい谷地温泉だ。


奥入瀬渓流の「石ケ戸の瀬」付近の様子

湯治の宿 谷地温泉
所在地:青森県十和田市大字法量字谷地1
TEL:0176-74-1181
●泉質:単純硫黄温泉(硫化水素型)
●源泉温度:38度(下の湯)
●湧出量:測定不可(自然湧出)
●pH:4.51(下の湯)
●日帰り入浴:10:00~18:00(受付17:30)、5歳~小学生450円
●日帰り料金:大人500円


上の湯。淡く白濁しているのがわかる。衝立の向こうが下の湯


下の湯。地元客は当たり前のように1時間ほど長湯していた


源泉は4本あり、そのうち2本が上がり湯に使われている


2013年5月末の取材時には、まだ周辺に多くの残雪があった

雪融けが進み、桜が散るころになって、東北の山々はようやく緑の季節を迎える。短い夏を逃すまいと、木々が勢いよく芽吹き、葉が一斉に茂りはじめるのだ。

昨年のいまごろ、私は青森の奥入瀬渓流にいた。

十和田市の焼山から十和田湖に注ぎ込むまでの、約14㎞にわたる奥入瀬川の渓流。
渓流沿いは車道と遊歩道が整備されており、温泉取材を終えた私は、窓を全開にしてこの渓流沿いをクルマで下った。

かつて、これほどまでに新緑のドライブが気持ちいいと思ったことはなかった。
もちろん、新緑の季節に、何度もドライブしている。
だが、開発によって過剰に護岸整備されているわけでもなく、車道とほぼ同レベルの高さで、静かに流れる奥入瀬川を眺めながらの運転は、格別の雰囲気に満ちていた。
奥入瀬渓流自体が国指定の特別名勝であり、天然記念物であるのも、納得できる気がしてくる。

ところどころに滝が点在し、休憩所にクルマを停めて散策したくなる。
私が立ち寄った石ケ戸の瀬には、巨木に横たわる大きな一枚岩があった。
渓流そのものを楽しむにはバスで下車し、目当ての遊歩道を歩くのが一番だが、取材を終えての帰路では、時間的な余裕が残されていなかった。

奥入瀬渓流にいたる直前まで、私は谷地温泉にいた。
渓流沿いの合流地点まで、国道103号をクルマで約20分。
谷地温泉は、八甲田山の南東に位置する一軒宿だ。

谷地温泉の枕詞を探すと、日本三大秘湯という言葉が出てくる。
北海道のニセコ薬師温泉、徳島の祖谷温泉と並び、谷地温泉を指すらしいのだが、誰がどういった理由でこれらを三大秘湯と呼ぶようになったのかは不明だ。

1980年代に深夜番組がきっかけとなって秘湯ブームが起きたが、その頃の交通事情の影響だろうか。
本当にアクセスが困難なところは、そもそも広く知られることはないし、観光客も訪れにくいことから、テレビでは取り上げられてこなかった。ちょうどいい距離感で、雰囲気を出すための枕詞として使われたのが、いまも残っているだけなのかもしれない。

ただし、谷地温泉の泉質はすばらしかった。

チェックアウトが終わり、お昼を迎えるころになると、温泉宿は落ち着きを取り戻す。
しかし、私が訪れた昼時に、谷地温泉の受付はにぎわいをみせていた。
帰りがけに日帰り入浴をする観光客が、次々にやってくる。

谷地温泉の木造の大浴場には、2種類の単純硫黄温泉がある。

「上の湯」は源泉42度。宿から100mほど高いところから引いており、加温してから湯船に注ぎ込む。湯はほんのりと白濁していて、それほど玉子臭も酸性度も強くない。

注目なのが、源泉38度の「下の湯」だ。
こちらの湯船には、どこからも引湯している注ぎ口がない。

湯底のヒバ材のスノコ状の隙間から、湯がこんこんと湧き出してくる、「ぶくぶく自噴泉」なのだ。

“霊泉”と名づけられているとおり、ありのままの源泉の湯船に、そのままつかることができる。
上の湯と違い、こちらは無色透明で、湯底まできれいに澄んで見える。

浴槽のかたわらに柄杓が置いてあり、湧き出る源泉を汲み上げられるようになっている。
ひと口飲んでみると、苦いこと。上の湯にはこのような苦味はないから、同じ単純硫黄泉でも泉質がまったく違うのだ。

もちろん温度調整をしているわけではないので、少しぬるめだ。客はゆったりとつかり、なかには一時間以上、湯船に入っている地元客もいる。

下の湯で長湯し、上の湯で体を温める。

「ぶくぶく自噴泉」の価値を知っているからこそ、下の湯にはあえて手を加えずに、ありのままの源泉が楽しめるようになっている。

こちらのふたつの浴槽は、残念ながら日中は男湯になっていて、女性客は楽しめない。
ただし、女湯の「下の湯」は、板敷の下で湧く源泉を、そのままパイプで引湯しているので、泉質はまったく同じものだ。
また、宿泊客に対応し、19時~20時半までは女性専用として開放される。

この温泉は八甲田山登山の高田大岳に至る山岳基地でもある。登山客はこの湯をめざして下りてくるのも納得がいく。

一時、経営に行き詰まり、この宿は閉鎖を余儀なくされた。しかし、平成20年7月より伊東園グループにより再開され、現在は1泊5800円から利用可能だ。

かつて、瀬戸内寂聴が源氏物語の現代語訳を書き上げる際、この宿を利用した由縁がいまも残されている。

 貴重な温泉遺産を遺すためにも、ぜひ多くの観光客に“奇跡の湯”を体感してもらいたい。「秘湯」と呼ぶにふさわしい温泉だ。


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東北新幹線を利用する場合、八戸駅から谷地温泉までは、国道102号線経由で約62㎞。1時間30分程度。奥入瀬渓流から十和田湖をめぐり、戸来岳南側の国道454号で八戸に戻るというコースを描ける。八戸自動車道・下田百石ICからも国道45号から102号に乗るルートでほぼ同様。
東北自動車道は、南からだと十和田ICが基点。大湯温泉から十和田湖を経由し、奥入瀬渓流を遡行するルートで約68㎞、1時間45分。東北自動車道からの最短は黒石ICから国道394号を東へ、103号経由で約35㎞、50分。ただし、冬季は国道103号の八甲田山南側、酸ヶ湯谷地温泉は不通となるため要注意。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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