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  鳥取県の大山(だいせん)は信仰の山として知られ、多くの民話に登場していますし、山中にある出雲國神仏霊場第九番の「大神山神社」を訪ねる人が後を絶ちません。また、大山から眺められる境港の街は、今では“妖怪の街”として観光客を魅了しています。
 
  

現在は静岡県の知事を務める川勝平太さんは、日本の歴史学者として早稲田大学、国際日本文化研究センターなどで教授をしていました。 
  
  川勝さんに日本の庶民信仰について尋ねたことがあります。 
  そのなかで印象的だったのは、日本人の自然信仰についてです。 
  
  活火山があれば、その怒りを鎮めるために地域の人々は祈りました。 
  
  また、土着信仰の対象であった山々でも、たとえば“讃岐富士”として知られる香川県の飯野山や象の頭の形をしている同じく香川県の象頭山(金刀比羅宮がある山です)は、北前船が発達すると航海のランドマークとなり、それが“守り神”として地域外の人々にとっても信仰の対象として広まっていったそうです。 
  
  こうして、日本独特の自然信仰は生まれ、発展していきました。 
  
  鳥取県にある標高1729mの大山は、『出雲国風土記』の昔より、「大神岳(おおかみのたけ)」と呼ばれ、奈良時代に山岳信仰の対象として開かれたという伝聞があります。 
  
  また、中国地方の日本海側には出雲大社などもあり、数々の神話、民話が残されています。 
  
  鳥取民話「大山くらべ」もそのひとつです。 
  
  ☆
    
  昔、海向こうの韓の国に“韓山”という立派な山がありました。 
  韓の国の神さまは、「日本にも山があると聞く。ここはひとつ、背の高さを比べてみようじゃないか」と、韓山を巨大な船に積んで運んできました。 
  
  いよいよ鳥取に着くという頃、雲の合間から大山が見えてきました。その雄姿に仰天した神さまは、「とてもかなわない」と韓山をそこに捨てて帰ってしまいました。今でも大山の手前にそびえるのがこの山で、韓の国にちなんで“高麗山”と呼ばれています。 
  
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  こんな民話が残る大山。
  地域の信仰だけでなく、北海道・松前をめざす北前船にとっても航海のランドマークとしての役割を果たしていたのでしょう。 
 
  


大山は山そのものがパワースポットなのですが、神社やお寺としては「出雲國神仏霊場」の第九番大神山神社と第十番大山寺が有名です。 
  
  大山情報館が設置された大山の駐車場にクルマを停め、そこからが散策コースになります。 
  
  静かな林間の山道を登ると、最初に現れるのが大山寺です。大山寺には重要文化財の阿弥陀堂、丈六木造阿弥陀三尊などがあります。 
  
  さらに、坂道をあがれば大神山神社に出ます。散策路はそのまま山頂へ続く登山道になりますが、パワースポットめぐりが目的ならば、この神社でゆっくりしたいものです。 
  
  奥宮は日本最大級の権現造りの神社で、神仏混交の様式に特徴があります。 
  
  また、銀箔を貼ってから漆を塗り、化学変化により金色を出した「白檀塗」方式が使われている独特の室内も一見の価値があります。 
  
  さらに、驚かされるのが花鳥風月の描かれた天井画。 
  
  長い階段を登ったぶん見る価値がある、山中のパワースポットです。 
  
  神社にお参りした後は、名物の乳製品で喉を潤し、その後は境港へ。 
  
  大山から見る境港方向の景色もなかなかなもので、ここにも民話が残されています。 
  
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  国びき神話  
  八束水臣津野命(ヤツカミズオミヅノミコト)という力自慢の神さまが、「出雲の国はできたばかりで狭い」と困っていました。 
  
  国を大きくしたかった神さまは、海向こうに余った土地を見つけ、そこに綱を結び付け、綱を持ち上げると「国来、国来(くにこ、くにこ)」と掛け声をかけながら、たいそうな力で引っ張りました。 
  
  土地はやがて離れ、出雲の国の北側にくっつきました。これが現在の島根半島です。そのあとも、さまざまな土地を引っ張り、出雲を立派な国にしたそうです。 
  
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  このときに綱を引くために打った杭が後に大山になり、綱は海岸線の美しい弓ケ浜になったと伝わっています。 
  境港はそうやってできた土地にある港町です。 
 
  

NHKの朝ドラでいえば、「じぇじぇじぇ」の少々前、「ゲゲゲ」の街なのです、境港は。 
  
  『ゲゲゲの鬼太郎』の作者である水木しげるの出身地だけに、境港には「水木しげる記念館」や、妖怪のブロンズ像が100体以上置かれた「水木しげるロード」に加え、「妖怪神社」「妖怪倉庫」「妖怪ポスト」「河童の泉」「鬼太郎交番」「目玉おやじの街灯」などがあり、街全体が妖怪タウン。 
  
  聞いたところでは、鳥取の観光名所・鳥取砂丘より訪れる観光客数が多いのだとか。 
  
  たしかに、妖怪グッズを眺め、妖怪関連飲食品を買い食いしながら、「ねこ娘、発見!」「ねずみ男、見つけた」などとブロンズ像を探してそぞろ歩くのは楽しいものです。 
  
  それにしても、地域の人たちのアイデアには頭が下がります。 
  
  パン屋さんには、「塗り壁」や「一反木綿」といったパンがあります。お菓子屋さんの名称は「妖怪食品研究所」で、栗とこし餡をねりきりで包んだ限定のお菓子「妖菓 目玉おやじ」は、姿が目玉おやじそのもので…。 
  
  出雲の神様が引き寄せて造った土地は、新たなる魅力を発信していたのです。 
  
  これもまた、地域が生んだ強烈なパワーの賜物。結果として観光客が押し寄せているのですから、この街には「商売」や「アイデア力」のご利益がありそうです。 
  
  さて、これからの季節、境港にはベニズワイカニがあがります。
  
  妖怪とカニ、そして境港と大山の中間にある名湯、皆生温泉へ。 
  
  自然信仰と妖怪の街へのおでかけは、印象に残ること保証付きです! 
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。















