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福島県高湯温泉は、古くから「奥州三高湯」と謳われ、その薬効が広く知られてきた。平成22年、東北で初となる「源泉かけ流し宣言」を採択。自然の中にたたずむありのままの湯小屋は、後世に伝えるべき希少な温泉となっている。

湯小屋「玉子湯」。右手の小さな祠が源泉高湯5番玉子湯。

高湯温泉 旅館玉子湯
所在地:福島県福島市町庭字高湯7
TEL:024-591-1171
日帰り入浴料金:大人700円、4歳以上~小学生400円
日帰り入浴受付時間:10:30~14:00(受付13:00まで)
泉質:酸性-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉
泉温:46.5度(仙気の湯、高瀬の湯混合槽)


「玉子湯」の建物内部。夜はランプが灯される。清潔でありながら、風情を残していてじつに気持ちがいい。


大正十年当時の「玉子湯」湯小屋。入口が異なるだけで、現在と趣きは変わらない。


野天岩風呂「天渓の湯」の脱衣所と浴槽のひとつ。さらに大きな浴槽がこの 左手前にある。


5番源泉から約100mほど上がったところにある10番源泉。樋を伝うことで硫化水素ガスは揮発し、湯が適温に冷まされる。


旅館玉子湯外観。四季を堪能できる全52室の源泉かけ流しの宿。1泊2食で1万3800円から。

4月某日、ぼくは福島にある温泉宿へと向かっていた。
東京の桜はすでに散ってしまったが、新幹線で北に進むにつれ、車窓から満開の桜が咲く光景が、何度も目に飛び込んできた。

以前より一度は訪ねてみたいと思っていた宿で、ここは茅葺の湯小屋があることで知られている。  

福島駅でレンタカーを借り、一路高湯温泉へ。
駅からは県道70号線の高湯街道を西へまっすぐ。約30分のドライブだ。  

吾妻山に向かって、勾配は徐々に急になっていく。
この道は磐梯吾妻スカイラインへと続く道で、高湯温泉から土湯峠へと続いている。冬季は閉鎖しているが、ゴールデンウィークから秋にかけて、五色沼や浄土平など、大自然の雄大な風景を楽しみながら吾妻連峰を縦断する26㎞のワインディングロードだ。  

福島側から上がると、高湯温泉は磐梯吾妻スカイラインのちょうど入口に当たる。
急勾配が続き、クルマのエンジンがうなりを上げはじめた中腹に、今回訪ねる宿はあった。
高湯温泉の入口に当たる宿、それが旅館玉子湯だ。
失礼ながら、想像していた以上に立派な宿で、ロビーは居心地のいい空間が広がっている。じつはあとで、宿泊施設と湯小屋とのギャップに驚かせられるのだが、現代的な生活に慣れてしまった身としては、それがかえってありがたかったりする。  

高湯温泉は、かつては信夫高湯と呼ばれ、奥州三高湯のひとつと数えられる。
山形の最上高湯(蔵王温泉)、白布高湯(白布温泉)と並び、高地に位置する名湯と謳われてきた。

『日本鉱泉誌』(明治18年刊行・内務省衛生局編纂)によれば、発見は慶長七年(1602)。観光協会の資料によると高湯温泉の開湯が慶長十二年(1607)と伝えられているので間違いない。
徳川家康が関ヶ原の戦いを制し、征夷大将軍に任じられた頃(慶長8年)に当たる。  

信夫屋の祖である狩人の宍戸五右衛門、五左衛門兄弟が、山をさまよい歩くなかで湯煙を発見し、さらに山を登ると沢辺に真っ白な湯の花を見つけたという縁起がこの地に残っている。

高湯温泉には「一切の鳴り物を禁ず」という申し合わせがある。
「山を荒らせば、冷気、風雨、風などの山荒れが起こり、田畑の生育はもとより。湯の恵みに差し障る。天来のものを、天来のままに――」
吾妻山の山岳信仰による敬虔な思いは、高度経済成長期の狂乱のなかでも変わることがなかった。そのために、高湯温泉は古来の湯治場の雰囲気がそのまま、現代まで脈々と息づいている。  

玉子湯は、歴史ある高湯のなかで3番目に開業した宿になる。
創業は明治元年(1868)。
その当時から変わらないのが、湯花沢沿いにある湯小屋だ。
風呂に向かうため建物から湯小屋のある庭園に出ると、タイムスリップしたかのような感覚にとらわれる。  

湯小屋の右手に小さな祠がある。
注連縄で取り囲まれた湯壺が源泉だ。
温度は47度程度とほぼ適温に近いのだが、源泉に直接つかることはできない。というのも、湯とともに腐乱臭のある硫化水素が吹き出しており、呼吸障害や気管支炎を起こして死に至ることもあるからだ。  

自然にまかせて湯の毒素を飛ばし、温度を下げてそのまま湯船に注ぎ込まれる。
水を加えることもなく、加熱することもなく、湧き出るお湯をそのままぜいたくにかけ流しする。
これほど自然のあるがままの姿に近い温泉だからこそ、高湯温泉は名湯と謳われてきたのだ。  

訪れた日はちょうど茅の葺き替えが終わった直後で、黄金色の屋根がまぶしいほどだった。少しずつ保存のために手を加えているものの、建物は明治元年に造られたときのまま、残されている。
手元に大正十年(1921)当時の湯小屋の写真がある。
宿の方に話をうかがうと、大正期には湯小屋は少し下に位置していたというが、建物の雰囲気だけでなく、湯壺と湯小屋との位置はほとんど変わっていないように見える。  

宿の裏手から庭園に出ると、正面にその「玉子湯」の湯小屋がある。
その左手の湯花沢の川下にはさらにふたつの湯小屋が並んでいる・
婦人専用露天風呂「瀬音」と野天岩風呂の「天翔」「天渓」だ。

「玉子湯」は内湯になっており、男女ごとに脱衣所と浴槽が分れている。
その下のふたつの湯小屋は脱衣所で、大岩で囲まれた露天風呂が堪能できるという仕掛けだ。  

待ちきれずに「玉子湯」につかってみる。
注ぎ込まれる湯は無色透明でかすかに青みがかって見える。透き通った湯は、不思議なことに時間が経つにつれて白色に変化していくのだ。
すくって鼻を近づけると硫化水素臭がかすかに漂い、なめると酸味を感じる。

玉子湯の硫黄濃度は全国でも有数で、万座温泉(群馬)、月岡温泉(新潟)に次いで高いとされている。
高血圧、動脈硬化、慢性皮膚病、慢性婦人病、関節痛などに効用がある。
文化文政の時代(1804-1830)には、文吾という炭焼きが、大やけどの傷をこの玉子湯で跡形もなく直したという記録が残っている。  

ほぼ150年にもわたって、原型を保ち続けている温泉。  

ほとんど手を加えずに入ることができる温泉が湧くというのが奇跡なら、それを護り続けるというのはいかにむずかしいことなのか。
じんわりと体の芯から温まっていくなか、日本に残された数少ない温泉に思いを馳せながら、健康でこの地を訪れることができた喜びを感じていた。

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磐梯吾妻スカイラインの開通時期は4月上旬から11月中旬まで。この春は季節はずれの雪のために通行止めになったときもあった。最高1622mを走る山岳有料道路で、高湯温泉から土湯峠に至る。「日本の道100選」にも選ばれ、井上靖が「吾妻八景」と命名した景勝地が大きな見どころになっている。
http://www.dorokosha-fukushima.or.jp/douro/skyline/
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/
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