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伊豆下田は湯量豊富な温泉宿がいくつも点在している。なかでも河内温泉は、大正四年に建てられた「千人風呂」が圧巻のひとこと。男女共用の大浴場だが、客が途切れる時間の合間をみて泳ぎたくなるほど、浴槽は大きく深い。
伊豆下田河内温泉
千人風呂 金谷旅館

所在地:静岡県下田市河内114-2
TEL:0558-22-0325
日帰り入浴料金:土日祝・ハイシーズン/大人1000円、小学生500円、平日/大人700円、小学生500円
日帰り入浴受付時間:9:00~21:00
泉質:弱アルカリ性単純温泉
泉温:55.2度(下田温泉総合)
湯量:5500l/分(下田温泉総合)


大正四年に建てられ、平成十四年に改築された「千人風呂」。木造の大浴増としては日本屈指の規模を誇る


金谷山を背に、緑に囲まれた2000坪の敷地をもつ宿


昭和四年に建てられた本館二階の「松の間」。天城山の杉の巨木から製材された柱や秋田産神代杉による天井板が贅沢に使われている

写真:『温泉遺産』(実業之日本社刊)より
下田市街から稲尾沢川沿いに、下田街道・国道414号線を3㎞ほど北上する。
伊豆急行蓮台寺駅にほど近い山間に、蓮台寺温泉と河内(こうち)温泉がある。  

蓮台寺には複数の温泉宿が点在し、河内温泉はそのなかのひとつ、稲尾川沿いの一軒宿だ。

以前、この特集で蓮台寺温泉の清流荘を取り上げたことがある。
源泉かけ流しの25mの温泉プールは圧巻で、豊富な湯量を誇る贅沢な湯宿だった。  

下田温泉旅館協同組合のホームページによると、蓮台寺温泉、河内温泉、白浜温泉、観音温泉を合わせた下田温泉の源泉数は15、湯量は毎分5500リットルにもなるという。  

毎分2万3000リットルを超える草津(群馬)や1万5000リットル以上の別府(大分)には及ばないものの、全国ベスト20に入ってもおかしくないほど、湯量は豊富だ。  

これほどの温泉地がどのようにして発見されたのか。
蓮台寺という地名の由来とともに興味が湧いてきた。

 『日本鉱泉誌』(内務省衛生局編纂・明治十九年刊行)によれば、蓮台寺温泉の発見は寛政三年(1791)九月になる。明治期には薬師湯とも呼ばれていたようで、当時すでに年間1830人の浴客が訪れていたという。こちらは温泉宿が複数かたまっている、現在の蓮台寺区共同湯あたりを指していると思われる。
一方の河内温泉は、江戸後期の天保九年(1838)の発見。浴場が開設されたのは十二年(1841)だ。明治時代の来場者数は年間1100人と、蓮台寺温泉と同様の水準になっている。  

蓮台寺温泉は約1300年前、行基が開湯したという伝説がある。  

そもそもこの地には、蓮台寺という寺は存在しない。
いったいどういうことなのか。  

行基(668-749/677生誕説もあり)は奈良時代の高僧で、日本で初めて大僧正という僧官制の最上位に任命された人物だ。
奈良の大仏建立の際には聖武天皇(701-756)により招聘され、実質上の責任者とみなされている。  

行基は15歳で出家。飛鳥寺で法相宗などの教学を学ぶ。
師は入唐して玄奘(602-664三蔵法師)の教えを受けた道昭(629-700)だ。  

飛鳥時代の仏教は、朝廷においては国を治めるための手段と考えられ、民衆への布教活動は禁じられていた。

行基はその禁を破り、畿内を中心に仏法の教えを説く。
養老元年(717)には、元正天皇が行基の活動を禁圧したほどだ。

行基の名が現在でも日本各地に残っているのは、貯水池の掘削や灌漑、架橋、困窮者のための施設の建設など、各地で社会事業を成し遂げたことにある。

行基と静岡の蓮台寺との関連を調べるため、現存する蓮台寺をリストアップしてみた。

時宗蓮台寺(神奈川県小田原市)、由加山蓮台寺(岡山県倉敷市)、上品蓮台寺(京都府京都市北区)、蓮台寺(檜垣寺/熊本県熊本市)がある。

このうち関連がありそうなのは、まず由加山蓮台寺。真言宗御室派で、開基は天平十年(738)、行基によると伝えらえている。しかし下田の蓮台寺につながるような手がかりはいまのところ見当たらない。  

次に行基とのかかわりが深いと思われるのは、宗派との関連で推察すると、真言宗智山派の上品(じょうぼん)蓮台寺だろう。
聖徳太子が母である間人皇女の菩提寺として建立し、宇多法王が中興となったという縁起がある。
聖徳太子が亡くなるのは622年4月8日で、間人皇女が没するのは同じ年の2月6日である。聖徳太子については謎が多く、この伝承を鵜呑みにするわけにはいかない。
だが、ここは行基について調べているので、今回はひとまずおいておこう。  

上品蓮台寺と行基とを結ぶ手がかりは、いまのところ私の手元にはない。
行基の活動範囲はおもに畿内にあると思われるのだが、全国各地には行基が発見したという温泉地が数多く存在する。

もしや、下田にあるこの一群の温泉地もそのひとつなのか。  

そう思った矢先、同じ蓮台寺温泉のある宿の歴史に、ひとつのヒントが記載されていた。  

かつてここには蓮台寺という寺が存在していたのだが、承久年中に廃寺となって いるというのだ。いまではその寺がどこにあったかすら、わからないらしい。  

ただし、そこに蓮台寺が存在していたというヒントは、蓮台寺区共同湯に近い、静かな林の中にある天神神社の縁起にあった。  

天神神社は、文字どおり、大宰府に流された菅原道真(845-903)を祭神に祀っている神社だ。道真の才能を高く評価し、彼を重用したのが宇多天皇だ。
なんとなく上品蓮台寺とのかかわりが見え隠れする。  

天神神社の縁起によれば、孝謙天皇の御代の天平勝宝三年(751)、行基により温泉山蓮台寺が開創される。
大日如来を本尊とする真言密教の寺で、承久年中(1219~1221)に廃寺となったという。
ちょうどその頃勃興しつつあった鎌倉新仏教と、旧仏教である真言宗の対立が背景にあったのだろうか。

本尊であった大日如来等身大坐像が、いまも天神神社に残されている。
温泉山蓮台寺が確かにここに存在した証しといえよう。
鎌倉初期の作とされるその仏像は、国指定有形重要文化財になっている。
大日如来像の存在こそが、行基とこの下田にある蓮台寺温泉とを結ぶ、貴重な手がかりとなっているのだ。  

蓮台寺温泉も河内温泉も、江戸期の発見によるという『日本鉱泉誌』の記述には、行基発見のエピソードが抜け落ちている。
それがどういう理由によるのかは、いまのところまだわからない。  

河内温泉は、天保時代に発見されて以来、現在も緑に囲まれた2000坪の敷地のなかに、静かにたたずんでいる。
ご主人によれば、今井家による創業は慶応二年(1866)。  

この温泉を一躍有名にしているのが、旅館名にも冠されている「千人風呂」だ。
壁から浴槽まですべてが総檜による木造で、「日本一の総檜大浴場」といえる。

この風呂は長さが約15m、幅が約5mある。
平成十四年五月に古い板を張り替え、総檜となったが、元々は大正四年の建築というから、当時から木造の大浴場としては最大であったと思う。
アーチ状の天井は、木造ではあまり見たことのない建築法だ。

浴槽の中央部に丸太の仕切りがあり、奥は深さが1mにもなる。
混浴で、水着の着用は不可だが、タオルを巻いての入浴は認められている。
混んでいなければ泳ぐ気持ちよさを体験してほしいとの但し書きには、思わず微笑んでしまう。  

温泉は無味無臭の弱アルカリ性。さらっとして肌にやさしく、長湯しても湯あたりしない。  

もうひとつ、ぜひ入浴したいのが明治末に建てられた「一銭湯」だ。
こちらは使われなくなった建物に手を加え、屋根だけが当時のまま残されている。かつて一銭で入浴できた銭湯のなごりからこの名がつけられ、現在は家族風呂として利用されている。  

また、混浴に抵抗のある女性のために、「万葉の湯」という木造の内湯もある。4つの浴槽は泉温が異なり、好みの湯加減を選ぶことができる。
いちばん大きな浴槽は長さ約11m、幅が約5mと「千人風呂」に匹敵するほどで、泳げるほどの深さがある。  

このほか、打たせ湯や気泡浴も楽しめる露天風呂も男女別であり、「一銭湯」を除いて日帰り入浴も可能だ。  

現在の本館は昭和四年に完成した建物で、床や柱には檜が使われているほか、杉や欅などを利用した二階建ての木造建築になっている。
こちらもなかなか趣き深い。  

ひっそりと、それでいて風雅な雰囲気の漂う歴史の宿。  

東京から近いのに、伊豆半島はエアポケットのように歴史が止まっている場所がいくつもある。

下田の温泉は、なかなか奥が深い。

5月17日(金)~19日(日)は下田を代表するイベント「黒船祭」が開催される。また、6月中は「あじさい祭り」や名物金目鯛が当たる「下田きんめ祭り」など、夏に向けて多くの催しが開催される。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/
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